COO通信 vol.03
試食エンターテイメント、はじめます。
ご無沙汰しております。有限会社クー代表の河合真一です。
前回は、1000年続く神事をVRで撮る話でした。今号は、そこから思いきり振れます。醤油を、売らずに配る店の話。
それと今号から、もうひとつ。AIについて毎号みじかく書くコーナーを始めます。現場で感じたことを、ひとネタずつ。最後に置いておきます。
◆ 物を売らない店を、作っています。
前回は福島で、1000年続く神事を8KのVRで撮っていました。今月の現場は、そこからガラッと変わります。
「試食エンターテイメント・オタメシヤ」というプロジェクトをやってます。
日本各地には素晴らしい食があります。その「食」をサンプルとしてあつめて、来場者に無料で試食してもらう取り組みです。
今回は、全国からのお醤油を集めました。来場者に好みのサンプルを選んで持ち帰ってもらう。お金はもらわない。文字通り「物を売らないお店」です。フラクタルさんとの共同事業です。
なんで、売らないのか。
以前のデパ地下は、試食だけでも楽しい場所でしたよね(コロナの影響もありだいぶ縮小しちゃいましたけど)。あの「タダで、ちょっと試せる」体験そのものを、ひとつの「楽しい場所」として立て直したい。「オタメシヤに行けば、知らなかったいいものに出会える」——そう思ってもらえる場所=ブランドを作るのが狙いです。これはその第一弾で、ゆくゆくは食品以外にも広げられると思っています。
これ、私の中では映像の仕事と地続きなんですよね。映像でずっとやってきたのは「人にどう届けて、どう心を動かすか」。それを今度は、画面の中じゃなくリアルの体験で設計している。前号の野馬追で書いた「保存じゃなく、ちゃんと回る形にする」とも根っこは同じで、試してもらった記録は、いいものを造る作り手の側にちゃんと返していきます。
その第一弾を、7月4日(土)、イオン新浦安でやります。説明係に頼らず、来た人が自分で試して、選んで、持って帰れる——そういう体験を、まるごと設計した一日です。
「試して選ぶ体験、自分の業界でもやれそう」。そう思った方、返信ください。
◆ AIコラム:次のスターは、どこから生まれるのか
先日、ハリウッドの映画事情に詳しい知人と話す機会がありました。いちばん刺さったのは、この一言です。
「AIで何ができるか、なんてもう議論ですらない。答えはとっくに出ている」
実際、向こうの現場はすでに割り切っているそうです。背景や環境はAIに全振りする。けれど、人物だけは頑なにリアルな俳優を使う。コストだけ見れば、俳優もAIにした方が安いのに、です。
なぜか。AIだけにすると、次のスターが生まれてこないから。
若い俳優が現場で経験を積み、才能を開花させる。その機会をAIで消してしまうと、次世代の主役の供給が枯れる。スターのいない映画産業に未来はない。だから人間を残す。感傷ではなく、産業を存続させるための判断としてそうしている、という話でした。「次のスカーレット・ヨハンソンになる」と売り込まれたAI女優に、俳優組合が「創造性は人間中心であるべきだ」と声を上げたのも、根は同じだと思います。
これ、映画だけの話じゃないんですよね。
スタンフォードの研究では、AIに晒されやすい職で、22〜25歳の雇用がこの3年で約13%減りました。一方で、経験のある層の雇用は減っていない。経験者がAIを持つと価値が上がり、若手の「入口の仕事」から先に消えていく。しかもその入口こそ、人がスキルを積んで一人前になっていく場所でした。
ここを放っておくと、こうなります。AIは使えるけれど、経験も審美眼もない世代だけが残る。何が良くて何がダメかを判断できる人が、いなくなる。モノづくりにとって、これはかなり効いてくる話だと思っています。
だから今やるべきは、経験を持つ私たちが、AIも活用しながら、若い人にちゃんと経験を積ませる。その仕組みを作ること。
クーとしても、そこへの取り組みを始めています。いつかこのレターでアナウンスできるよう、頑張ります。
◆ 編集後記
物を売らない店を、大真面目に経済として成り立たせる。聞くと矛盾だけど、そこがいちばん面白いかなと思っています。1000年の神事の翌月に醤油の小瓶を詰めている自分も含めて、振り幅を楽しんでいます。
次号もお楽しみに。